伝説のツーリング 十津川・熊野ツーリング(2014年9月16日)
参加者:お兄さん(CBR1000RR)、Kさん(FZ-1フェーザーGT)、自分(CBR600F4i)
またもや伝説を語るときがきた・・・。 実はお兄さん、昨年11月に敦賀へツーリングに行って以来、1000RRが冬眠に入ってしまい、お店の片隅でホコリをかぶったままに。 4月に入り、気候が安定してきても1000RRが動く気配はなく、GWになってもツーリングの話は出てこないのである。 自分はその姿を「新たなる伝説が生まれるのでは・・・」と悲壮感と複雑な期待感を持ちながら静観していたのだ。 が、しかし1000RRは動いていた。 GW前にタイヤ交換していた1000RRは、GWにタイヤの慣らしで名田庄までの往復、約150キロほどを走ってていたのだ。 誰にも声をかけずにお忍びでのソロツーリング。 それは1000RRが動いているのを誰かに見られてはいけないかのごとく・・・。知られてはいけないかのごとく・・・。 自分や軍曹さんから「去年からバイク動いてませんよね?」と言われるまで、この事実は伏せられていたのだ。 ”新たなる”伝説。 これを語るには、誰も超えられないであろう圧倒的記録と一生のネタを打ち立ててしまった絶対王者Tさんのことを語らねばならない。 Tさんとは以前の職場で知り合った。 乗っていたのは年季の入ったスペイシー125。 母親と同い年にあたるTさんは昔の免許制度の恩恵から大型バイクにも乗ることができる。 そんな彼には野望があった。 「いつかはビッグスクーター。」 彼は言う、「退職したらビッグスクーターを買ってカミさん乗せて旅行にでも行けたら。」 「あと、たまちゃん(こちらも前の職場のライダー)誘ってツーリングする。」(彼女は嫌だと言っていたのは内緒にするしかない・・・) そして念願叶って納車されたスカイウェーブ250。 そのクラスを超えたボディとパワー、まさに熟年ライダーにふさわしいであろう貫禄を持ち合わせたバイク。自分はそう思った。 バイクは楽しいものだ。ここから第二の人生が始まるに違いない。自分は確信していた。 Tさんはヘルメットを新調した。アライのMZである。 グローブも買った。RSタイチのカーボンプロテクター入りである。 シューズも買った。これもRSタイチ製。かなり高価なシューズだ。 そしてGジャンも買った。 完璧である。 ペラペラのスタッフジャンパーに軍手、ホームセンターのくたびれたヘルメットを被るおっさんスクーター乗りとは格が違うのである。 そんな姿に嬉しくなった自分は「ワイルドTちゃん」「ボ〜ントゥビ〜ワァ〜ア〜♪」などと表現して、たまさんに怒られた。 しかし、いざ納車されたスカイウェーブはこれまで乗ってきたバイクと比較して圧倒的に大きくて重たかった・・・。 彼は完全に出鼻をくじかれてしまい、納車の日は近所を少し回っただけと、以前とは比較にならないトーンで報告してきたのだ。 「倒しそうで乗れない」と弱気なメールを送ってくるTさんに、「バイクなんて深く考えず気ままにピュ〜〜っと走って行けばいいんですよ、走ってしまえば怖くないですから。 」 などと言ったものの、走る前の段階からくじけてしまっているTさんに上手くかける言葉はみつからなかった。 そしてスペイシー125の自賠責保険が切れた時点で、彼はスカブ1本に絞るはずが、なぜか納車されるアドレスV125S・・・。 スカイウェーブはツーリング専用マシンと格上げされたのである。 そしてスカイウェーブを動かすためにはツーリングをしなければならないというハードルを自ら作ってしまったのである・・・。 さらに不幸は続く、彼は初心者が行う儀式を、自分がきっかけで行なってしまったのだ。 「お披露目してくださ〜い」とメールした自分。 彼は自分との約束のため、スカブを職場に乗り付け、仕事帰りに自分と会うためガレージを出ようとして、敷き詰められた砂利に足を滑らせ、立ちゴケしてしまったのである・・・。 まさに痛恨の一撃・・・。 初めて乗り付けた職場ではコケてしまうわ、お披露目前に傷ものにしてしまうわ、それが一番の不安要素だったスカブ初立ちゴケだわ・・・、かける言葉に困ってしまった・・・。 「職場でみんながいるところでコケてやったぜ」 「お披露目前に傷ものだぜ?」 「カウルの慣らしは完璧だぜ?」 「バイクの慣らしが終わる前に」 「ふっふ〜ん」 「ワイルドだろ〜〜」 元祖立ちごけキングの自分ですら、ここまでは開き直れる自信はない・・・。 当然ワイルドTちゃんは千と千尋の神隠しに出てくるカオナシかのごとく存在を変えてしまった・・・。 そんなTさんに対して自分は、もののけ姫のアシタカのごとく「生きろ」と心の中でつぶやくしかできないでいた・・・。 そんなことがあったからといって、一緒にツーリングをする話を遠慮しておくのも後味が悪い。 その後、取り回しの練習会を兼ねて草津まで走りにいったり、マキノで開催されたダンロップツーリングステーションへ行ったりと、その年は2回もツーリングが決行される。 しかしその後は肌寒くなってきたのと同時に乗らない宣言をされるのであった。 納車から1年が過ぎた。 年間を通じてどれだけ乗ったかを聞くのも気まづい雰囲気がある。 暖かくなった頃合いを見てメールする自分。 帰ってきた返事に、笑ってはいけないのだが笑いがこみ上げどうにもこうにも抑えることができなくなってしまった。 Tさんから返ってきたメールはこうである。 暖かくなってきたので、久々にバイクを動かそうとしたら、バッテリー切れでエンジンがかからず、バイク屋さんに引き上げに来てもらい、そのとき「400キロしか走ってませんが1年以上経ちますので・・・初回点検とオイル交換しておきましょうか・・・?」と言われたらしいのだ。 この話を聞いたとき、もうこの人に勝てる人は自分の人生では現れないと思った。 いくらお兄さんが精神的なヘタレであっても、Tさんには到底かなわないと思った。 カッコをつけていてはバイクは乗れない。 バイクとは等身大でしか乗れない乗り物。 これを理解しなければバイクに取り巻くネガティブな部分と、想像していた自分像と現実の自分像とのギャップに押しつぶされ、おのずとバイクを去っていってしまう。 二人ともがその典型なのである・・・。 back top |