伝説のツーリング  十津川・熊野ツーリング(2014年9月16日)

参加者:お兄さん(CBR1000RR)、Kさん(FZ-1フェーザーGT)、自分(CBR600F4i) 


お兄さんというライダー

ここであらためて、お兄さんのことを語ろう。
彼の職業はバイク屋さんなのである。
整備の仕事はほとんどしなくなったおっちゃん(社長)に変わり、現佐々木モータースチーフメカニックなのである。
彼の乗るバイクは当時ホンダ最速を誇るCBR1000RRのフルパワー逆輸入車172馬力。
市販車レースのカテゴリーに合わせて作られたピュアスポーツの中のピュアスポーツなのである。

が・・・彼は走りには興味がないのだ。
いや、むしろカーブが多いところは避けたいというのである。
バイクに乗る動機はもっぱらTVで見た観光地かバイクのイベントへの移動手段。
走ることはツーリングではなく、いわば旅行と同意義なのである。

だが車も所有しているため他のライダーと一緒に行動するとき以外は車で不満がない。
バイクに乗る目的がかなり限定されており、自ら乗る機会がないのである・・・。

そんな彼にバッテリーは大丈夫かと聞けば「問題ない!ばっちりターミナルを外してある!」と、あたかも自分はバイクのプロであるかの主張をする。
いや・・・そうじゃなくて、バッテリー上がらないくらいのスパンで乗らないのか?という意味なのだが、その意味が伝わらないくらいバイクで走るということが日常から抜け落ちてしまっているのである・・・。
そのどや顔が脳裏から離れない。

そんな状況にある彼が、9月の連休に十津川、熊野に行きたいと言ってきたのである。

衝撃が走った・・・

自分は「紀伊山地はツーリングパラダイスである」という主張をかれこれ10年以上に渡って主張し続けてきた。
無論、「景色も道も最高ですよ」の意味であるのだが、自分が言えば言うほど、走って楽しい→カーブが多い→飛ばすバイクが多い→近寄っては行けない地域→行ったら死ぬ。
そんな受け取り方をしているのが薄々わかっていたからだ。

7月末にも自分は今回とほぼ同じルートをツーリングしている。
やはりいつものように紀伊山地は素晴らしく、その余韻に浸りながらそのことを伝えるのだが、「走ることが楽しい」というワードは徹底的に伏せていた。

山深く独特の文化や生活が生まれた紀伊山地の素晴らしさ。
つり橋、棚田、水運、熊野古道、温泉。 
切り立った山々に点在する集落は四国のそれとも雰囲気が似ている。

そんなワードで紀伊山地を語ってみた。
そこにバイクである必要性がまったく入っていないとわかりつつ・・・
バイクで走る”意義”をツーリングの主体とする自分は、心が折れながらもけっこう頑張ったと思う。

行間を読めてしまう人であればわかるであろう、いわゆる僻地であっても、どんな狭い道でも、どんな曲がりくねったワインディングでも、バイクだから気軽に立ち寄れるという本音を。
なによりそんな僻地をバイクで走る気持ちよさはこの上のない喜びであるということを。

「だから難しく考えずお散歩気分でビヤーーーっと走っちまえよ!」
魅力を語っていくほどにこのモヤモヤが大きくなってしまうのが辛かった・・・。

そのときのお兄さんの反応からして、今回のツーリングの動機は自分が”ツーリングスポット”として薦めたからではないということは確信している。
お兄さんは根本的に山道が嫌いだという事実。
乗っているバイクがリッターSSということもあって、ゆっくり走ってしまうと車体特性が仇となり、車体がつっぱりすぎるのと、上体の自由度がないこと、アクセレーションにダルさがないので山道はギクシャクしてしまうのである。

普通にバイクに乗れてしまう人にはこの意味は理解しづらいと思うのだが、わかりやすく言うと教習所内で、さらに教官の後ろをゆっくりバイクを走らせる場合にリッターSSか750ネイキッドかどっちが乗りやすいか、そういうレベルの話だと想像してほしい。

そんなお兄さんがひたすら山しかない十津川へ行きたいと言う。
さらに言うなら、前回の走行から2ヶ月も経っていない自分に対して敢えての選定。
同行者のことは考慮せず、”自分(お兄さん)がどうしても行きたい”ということなのだ。

これは・・・毎度のパターンの・・・
テレビの影響に違いない・・・。
そう勘ぐってみた。

お兄さんの脳みそは基本ミーハーにより構築されている。
TVでやってたところに「言ってみた。」と、TVでやってたことを「やってみた。」が目的である。
達成されると100%満足、つまり・・・リピート率は限りなく・・・ゼロ・・・。
それが自分としては非常に悲しい現実なのである。
「十津川はもう行ったよ?」
2ヶ月前に走ってきた自分に対しては同じ場所を提案してくることはあっても、自分が誘われる立場となると今後からはこう言い放ってしまう可能性がかなりの確率で高くなってしまうからである。

「何度も走りたいいい場所なのに・・・すでに終わりが見えるのか・・・」
動機がTVの影響でないことを祈るしかないのだ・・・。

しかし番組を作ってるメディアも、番組にお金を出してるであろう地方自治体や観光協会もこの事実にはガッカリであろう。
だがミーハーという生き物達は総じてこういうものである・・・。


せっかくのツーリング機会、他に誰か誘えないかと考え、フェーザーGTの軍曹さんを誘う。
現在休職中の軍曹さんは、目的地が紀伊山地であると聞くと、関西ローカルのワイドショーの連続企画でやっている場所だから興味があったと前向きな返答。
しかもそのコーナーを毎回楽しみにしているらしい。

その話しにお兄さんまでワイドショーネタに参加、二人で盛り上がってるではないか・・・。
自分は平日の昼間は仕事をしているので何が何やら・・・。
無論おにいさんもそうであるはずなのだが・・・、つまりお兄さんは録画までして見ているということになるのか・・・。

「・・・(今回もバイク版聖地巡礼に成り下がる・・・)」


実はロケみつ(関西ローカルのバラエティ)が終わったことに自分は安堵していたのだ。
「国道2号線で倉敷美観地区までいくツーリング」
「デカンショ街道経由で津山まで行き、たまごかけご飯を食べにいくツーリング」
TVの影響でこんな恐ろしいツーリングが頻繁に企画され、それに毎回「それはツーリングではない」と反対、疲弊の日々が続いていたからである。
交通量の多い幹線道路を車の流れで淡々と走れという内容はSSライダー殺しそのもの・・・、「SSでゆっくり走るのは拷問です」とつぶやく自分への嫌がらせかと疑うことすらあった。

「そんなツーリングに景色も走る楽しみもありません・・・」そんな思いをストレートにぶつけてみるも、お兄さんの基準と自分の基準があまりにもかけ離れているため、どちらが一般的なツーリングに近いのか、こちらが大きく混乱してしまうようになり、正直今でもツーリングというものは”移動”なのか”走りを楽しむのか”かなり悩む事態になっていたりもするのだ・・・。

バイクを楽しむという定義がわからなくなった自分は以前にも増してツーリング雑誌を購入してツーリングというものを再確認してみたり、移動と割り切ってビッグスクーターを購入してみたりと、かなり迷走状態にある・・・。


話を戻そう。
どうやら今回も聖地巡礼気分でいるのは明らか。本人は一切口にしないがもう間違はいない。
自分は灰のように真っ白に燃え尽きてしまったが、もう開き治るしかないのだ・・・。

彼は聖地巡礼ができれば満足。
こうなりゃとことん十津川・熊野のメージャースポット連れ回しの刑。
お兄さんが行きたい場所は十津川村の谷瀬のつり橋、そして熊野本宮大社(の鳥居)。
この内容では正直バスツアーのほうが経済的だし、楽。
あとはこれに自分がどう味付けをできるかにかかってくる・・・。

先ほども言ったようにバイクの機動力を活かせば例え紀伊山地が山深いところであろうと、酷道パラダイスであろうと、どこへも気軽に行くことができる。

黒滝→天川→十津川→本宮→熊野→北山→川上→吉野・・・・とか・・・?
「(悪くないけど時間かかりすぎるなぁ・・・、次の機会のために残しておいたほうがいいかなぁ・・・)」
「(いや、それはもうないんだろうな・・・)」

そんなこと考えていたら、次第に怒り近い感情が湧き出し、思わず「どうせ一生のネタ作りだから、今後一人でぴゅ〜〜っと走るようになるなんてないでしょ?」って言ってしまったのだ。
答えを今聞く必要はないのに・・・。今後に繋がる可能性もまだゼロではないと思いたいのに・・・。

しかし「まぁ遠いから簡単には行けないし」とか何やらごまかしながらも最終的には「うん」とつぶやくお兄さん。

「(終わった・・・)」
行く前からの今回限り宣言・・・。
灰のよう真っ白になっている自分のハートは自らの心に吹き荒れる風で吹き飛ばされて消え去るしかなかった・・・。

それなら話しは早い。
ならばもう詰め込めるだけ詰め込んでやる。
なにせ今回は十津川ファーストランにしてラストランなのだから。
「行ったことあります。」だけでは近畿ライダーの人気ツーリングスポット十津川の名を汚してしまうではないか。
その片棒を自分が担ぐなど到底できない。
せめて「十津川は山深かった、十津川は広かった」くらいは言えるようになってなければ日本一大きな村に対しても失礼に値するのではないか。

「黒滝は国道から一本外れて手堀りトンネルを見に行きます。」
「黒滝から十津川までは天川村経由。すごく川が綺麗でキャンプ場天国なんて言われてます。」
「十津川は谷瀬のつり橋を渡ります。野猿も体験してもらいます。」
「本宮は旧本宮大社。階段は登りません。体力がありませんから。絶対無理です。」
「そこから近くにある川湯に寄り道します。通りすぎるくらいですが。冬に千人風呂をやるところです。おっちゃんがよく話をしてるから行きたいでしょ?」
「帰りはR169からですが、まずはR311に逸れて丸山の千枚田に行きます。」
「そして北山村の瀞峡を見ます。」
「そして道の駅おくとろでジャバラを飲みます。お兄さん花粉症でしょ。」
「すぐ近くにバイクで渡れるつり橋もあるので渡ります。」
「あとはひたすらR169で帰ります。」
「変則的なループ橋があるので期待してください。個人的に大好きなところです。」
「たぶんに戻ってくる頃に暗くなります。夜間走行は覚悟してください。」

えぇ上から順って感じでマシンガンのように言い放ちましたよ。

本当はもっとも〜〜っと見て欲しいところも、走ってほしいも沢山あるのだが・・・
紀伊山地を愛する方々には自分の力不足をお詫びしたい気分である。

しかしその後、やはり時間が足りないと思い直し、自らの決断で黒滝、天川はキャンセル、五條からR168へアクセスへと変更されるのあった。


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